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(2020/9/22 3025 掲載)

16年前の大阪金融都市 構想を振り返る A
複数市場の必要性、阪大教授2人が提言

 2000年代前半の国内商品先物市場はかつてないほどの流動性を記録していた。東京工業品取引所はニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)に次ぐ世界2位の取引量で、2003年(平成15)には国内7取引所の年間出来高合計は1億5,000万枚(2019年は1,930万枚)とピークに達したが、その分営業手法を巡り顧客トラブルも多発していた。それはFX市場も同様で、公正な価格形成のためには公設取引所でのFX市場開設が叫ばれていた。今回は東京への取引一極集中に警鐘を鳴らしていた関西の有識者による提言を中心に振り返る。


堂島ブランドは高い価値が

くりっく365誕生から15年、かつての東西FX市場構想

 東京金融先物取引所(現・東京金融取引所)が国内初となる取引所外国為替証拠金取引(FX)の「くりっく365」を開始したのは、2005年(平成17)7月1日だった。これは個人投資家向けの市場であり、公設の取引所取引によって透明性を図り、信用基盤を整備することでトラブルの防止を狙った市場でもあった。

 スタート時の参加業者はエース交易、オリエント貿易、コスモ証券、三責商事、スターフューチャーズ証券−という5社のみが参加していた。

 関東でくりっく365が開設した一方、関西でも大阪金融先物取引所研究会が同日大阪市内で総会を開き、FX市場を開設するための新会社を翌8月中に設立することを決議している。新会社を設立し、定款などの作成、金融庁との折衝を経て2006年(同18)蕃の市場開設を目指す方針を掲げていた。

 新会社名は「株式会社大阪外国通貨イー・エックス」で、資本金は5,000万円、役員が代表取綿役1人、取締役3人、監査役2人という陣容だった。株主は大阪金先研の会員が中心となる予定で、会員は2004年(同16)6月1日の発起人会(10社)開催時の10人、同年9月までの第2次募集により32社まで増えていた。

 大阪金先研の会員は引き続き募集を行い、東西での取引所取引によるFX市場開設で店頭市場(OTC)との競合関係を築き上げるという関係者の目論見があった。

学会からも追い風、複数市場必要性の提言が


大阪金融市場の開設には地元財界人のバックアップ必要

 さらにこの時期、大阪市場創設について学会からも追い風が吹いた。大阪大の仁科一彦理事副学長と本多佑三経済学部教授(肩書は当時、現在はともに名誉教授)が「大阪金融先物市場の開設に向けて」と題した、提言を行い、先物市場の機能がリスクコントロールに対応すると明言した上で、市場のあり方についても競争原理により利便性の向上とコスト低減を追及する上でも、複数取引所の必要性を訴えた。

 こうした観点から、取引所の開設場所としても大阪は先物取引の伝統と習熟があり、関西地区での市場開設は大きな意義があると指摘している。なお仁科教授は現在、堂島取の経営改革協議会委員を務めており、複数市場の必要性を理解する上でも、少し長くなるが提言のポイントを引用していく。

 提言は全6部で構成され、「はじめに」で日本経済の中長期的な展望に基づき一般的な先物市場の重要性を強調し、緊急の政策課題として大阪金融先物市場の開設を提言している。そのためには成熟経済の特徴ともいえるリスクの本質を論じ、リスクに対応する存在として先物市場の機能を整理・確認し意義を明らかにしていくと論点を打ち出している。

 本論の「日本経済の新しい展開」では、日本経済は回復の兆しを見せているようだが、それがどの程度かは不明で、また回復のプロセスも確たる論証がない。こうした状況下で第一に今後の経済発展では企業活動が最も重要な要因となり、回復の主役になると定めている。

 第二は家計部門の金融資産蓄財1,400兆円(現在は1,900兆円)が、我が国経済の特質を大きく左右するとして、蓄積資金が革新的な企業活動を支える資本として、流動性の高い金融資本市場を通じ効率的かつ低コストで提供されることが発展と成熟には不可欠だとの考えを明示している。

 こうした方向性を示したうえで、経済の低迷を金融セクターが機能不全に陥っている危険性を強調している。

 それはこれまでの日本における余剰資金の貸し出しルートが銀行から企業に供給されてきたため、銀行の自己資本規制と不良債権問題によってルートに支障が生じてきたことに起因している。

 したがって銀行預金の貸し出し経路だけではなく、資金不足部門への多様なフロールートが求められる。その中で家計が望ましい資産管理に携わるときに必然的に遭遇する様々なリスクであり、その対応としてリスクコントロールが必要となってくる。

 この認識に基づき「成熟経済とリスク・コントロール」の項目では、リスクコントロールが日本経済のみならず先進各国の成熟した経済に共通の特性であるとみる。将来への予想や期待で行われる経済活動には、必ず付随するリスクを何らかの方法で誰かが負担しなければならない。

 これらのリスク負担や再分配を市場メカニズムで効率的に行っているのが成熟経済の流れで、規制や一部の利害によって止めるのは、国民的な損失になろと明言する。

 また成熟経済のもうひとつの特徴として、経済主体の需要の多様性を上げ、多様性を無視することは問題で、時間や空間を拡大した様々な経済活動に対応した構造が求められることになる。

 成熟経済を支え発展させる枢要なメニューのひとつがリスクコントロールで、「増大する先物取引概要」で先物市場の機能と展望を論じている。一般的にはリスクコントロールの手段は需要側の要求に応じて供給側から提供されるが、供給側が新しいアイデアを発揮した取引を開発することにより需要が想像される場合もある。その場合、取引の仕組みが合理的であること、信頼に基づく取引が成立することが重要だと述べている。合理的取引とは市場メカニズムと矛盾しない取引内容を持つことで、信頼に基づく取引とは契約の履行や決済に不確実性を伴わないことと定義付けている。

 このような市場メカニズムに基づくリスクコントロールの手段を提供することは、鉱工業製品、農産物あるいは金融商品を問わず、産業のインフラ・ストラクチャーを整備することを意味する。こうした手法を可能とするデリバティブズのほとんどの根幹部品には先物取引が組み込まれている。リスクコントロールには多くの場合に異なる時点間の契約を必要とし、先物取引が標準化された契約を信頼できる市場で取引可能となるという特性を有していることによるものである。

 この観点から日本経済の拡大と成熟を期待する限り、先物取引に対する需要は増大し、同時にそれが不可欠であるとしている。

先物取引発祥の地・大阪に新しい取引所を

 大阪金融先物市場は上記の条件を実現する目的で設立を目指し、提言における5番目の項目では我が国の経済は貿易立国の立場から国際為替取引や決済において必然的に為替市場の変動リスクに晒されていると分析していた。為替リスクに対しては大規模企業や機関投資家は金融機関と相対取引でヘッジしているが、多様な経済主体がリスクコントロールのために参加する本格的な市場取引が展開されているとは言い難い。

 そのために中小の取引規模を持つ企業や、外国通貨建ての預金や債券を有する各種のファンド、あるいは富裕層と呼ばれる家計や個人が自らの判断でリスクをコントロールできる場所と機会が切望されるという。

 多様な経済主体者が参入できるようにするには取引単位も多様で、契約条件も柔軟な先物為替市場の設営が必要で、設置場所は大阪が適していると断じている。理由はやはり先物発祥の地とされる堂島ブランドで、市場を運営する取引所は新しい取引のデザインやルールの開発およびコスト低減で競争し、国民経済に資することを目指す。このため複数の先物取引所で設営されることが必要で、国際的な競争状況を鑑みると、先物取引の伝統と可能性を持つ大阪での取引所創設が欠かせないと提言を締めくくっている。

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 編集発行人:村尾 和俊
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