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(2020/9/29 3027 掲載)

手数料引下げ親争が激化したあの頃
2005年秋、ネット証券とFX業界の合戦模様

 今から15年前の2005年(平成17)当時、商品・証券・FXの取扱業者は手数料収入が収益の柱だった。だがこの年は商品先物市場が加速度的に縮小を早める端緒となった年で、それは年初に導入された委託手数料の自由化に始まっている。当初は様子見の姿勢だった商先業者各社も徐々に引下げに及んでいったが、手数料引下げ競争はネット証券やFXにも広がった。この動きは今に至るまで続き、とうとうFXは手数料無料が当たり前、ネット証券もゼロを目指す動きが広がっている。今回は当時の手数料引下げの状況を振り返ってみたい。(シリーズ大阪金融都市構想は都合により休みます)

05年に始まった商品先物市場の縮小は手数料自由化から

 2005年5月、改正商品取引所法が施行され、商先業者の行為規制が大幅に強化された。強引な営業行為により顧客とのトラフリレが頻発していた商先業界にとっては、身から出た錆とはいえその影響は大きかった。法改正直後の同年7月に日本商品先物振興協会が会員86社に向けて実施したアンケート(回答80社)では、第1四半期(4〜6月)の改正法施行時を含めた3カ月間の委託売買高において、「増加した:18社」に対し「減少した:51社」と、すでに右肩下がりとなっている市場の状況が見て取れる。

 東京穀物商品取引所の故・森實孝郎理事長は当時、人形町の日山で開催された記者との懇談会で「あまりにも急すぎた」と市場衰退の要因を語っている。これは立て続けに施行された市場ルールや法案を指しており、同年は年初から委託手数料の自由化が導入され各社の引き下げ競争が始まった。さらに4月には個人情報の保護に関する法律が施行され、投資経験者などの名簿売買が規制された。とどめが5月の改正法施行で、勧誘相手に対する適合性原則の適用、再勧誘禁止といった営業手法の抜本的変革を余儀なくされた。

 現在でも存続している商先業者は、目先の利益に走らず上記の制約を受けながらも法令遵守の徹底を堅持してきたが、一方で従来どおりの営業手法を変えられずに行政処分の対象となり、市場から撤退していった業者も数多かった。

 ただ、手数料の引き下げ競争は商品先物のみならず、ネット証券やFXでも進行していったが、競争激化の端緒は商品先物同様 05年であった。


取引所も高コスト体質のままではいられない

イー・トレードvs楽天、覇を競った手数料引下げ合戦

 株式の委託手数料が自由化されたのは、商品先物より5年ほど早い1999年(同11)10月1日(参考:アメリカでは1975年5月1日に自由化)だった。

 国内初の個人投資家向けネット証券サービスは、96年8月、大和証券が開始した「ダイワのオンライントレード」だが、ネットを含む非対面取(外務員を介さない)専業に業態転換した最初の証券会社は、98年5月にサービスを開始した松井証券だった。

 だが翌99年4月にマネックス証券が設立されると、同年8月にはソフトバンク・イ
ンベストメント(現・SBIホールディングス)がソフトバンク・フロンティア証券(その後イー・トレード証券を経て現・SBI証券)や楽天証券といった現在最大手クラスのネット証券が市場に参入している。

 05年10月、まずは口座数首位のイー・トレードが業界最低水準による低価格戦略で独走態勢を固める方針を打ち出した。これに対し楽天もイー・トレードとほぼ同水準の低料金にシフトしている。もともとイー・トレードは手数料の料金設定について「低価格は営業戦略の重要なファクター」(北尾吉孝SBIホールディングスCEO)との方針に基づき、ネット証券の中で常時最低水準の料金体系を維持してきた。これにより口座数は拡大傾向を辿り、05年3月末時点での各社の口座数はイー・トレード68万口座、マネックス・ビーンズ45万口座、松井31万口座、楽天30万口座、カブドットコム26万口座となっていた。イー・トレード(現・SBI証券)はその後口座数が急拡大し、以後15年でおよそ7倍にまで膨らんでいる。

 当時のイー・トレード独走態勢に対抗すべく、楽天は「イー・トレードの背中が見えるうちに巻き返しを図りたい」(國重惇史社長)と、価格帯を同水準に据えた。

 なおこの時両社が導入した新料金体系は、1回当りの売買代金50万円以下=472円(税込、以下同)、150万円以上=1,575円、信用取引ではイー・トレードが1回当りの売買代金30万円以下=262円、30万円超=472円、一方の楽天が1日当り50万円まで=525円、100万円まで=945円、300万円まで=3,150円と、1回当りと1日当りとの違いはあるが。

 これが当時の割安料金体系であった。

FX業者が悲鳴を上げた取引所からの値下げ強要

 FXのネット取引における手数料引下げ競争は、東京金融先物取引所(現・東京金融取引所)の取引所FX「くりっく365」の参加企業が、05年秋に相次いで大幅な値下げを打ち出した。

 当時くりっくへの参加企業は5社のみだったが、各社ともに9月から手数料を引き下げている。例えばエース交易は9月から3カ月間限定で1万通貨ペア当りでの手数料価格が片道840円だったものが210円、コスモ証券も片道1,050円を365円、三貴商事は2カ月限定で840円を420円に、スターフューチャーズ証券は1カ月限定で420円を210円にそれぞれ大幅値下げした。残り1社の東京コムウェルも「検討中」と引下げ競争に乗っかる方針だったが、これらくりっくの値下げは税制等の優遇措置と資格要件での審査権をバックにした金融取からの圧力に近い要請だったと言われる。

 大幅値下げの前、金融取の経営上層部がくりっく参加の5社を訪問し市場規模拡大への協力を要請している。だが当時の取材では「あれはお願いとか理解を求めるというものではない一種の強要だ」、「役所の持つ許認可権をちらつかせれれば企業が言うことを聞くという役人根性が染みついている」、「高圧的な態度に検討すると答えたが、それは値下げの協力ではなく、くりっくからの撤退も含めた「検討」だなどと、各社が相当不快に感じている様子が見て取れる。

 さらに当時のくりっくについては、FXのOTC業者からも不満の声は大きかった。それは同様のスキームでありながら、くりっくの分離課税に対しOTCは雑所得の総合課税など差別的な待遇の他に、くりっくの説明会でOTC市場の信用を傷つけるかのような発言を行っていたなどと指摘されていることも大きく影響していたようだ。




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 編集発行人:村尾 和俊
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