奇才・土佐・啄木……
鍋島 高明 著
 私はゲラ(校正刷り)と向かい合っているときが好きだ。一般には三校までと言われるが私の場合はそれでは終わらず四校、五校に及ぶことも少なくない。亦字を入れてだんだんかたちが整っていく過程を楽しんでいるかのようである。

 本書は古川光良氏編集「米穀新聞」の「点描」欄に書いたものを中心に中島繁治氏が社主を務める「熱年ニュース」に執筆の二編を合わせて一冊にした。ほかに「やまいも」という雑誌の創刊号に書いたものが一編含まれている。この雑誌は昭和45年同じ職場の若手記者がお金を出し合って創刊したもの。粘りを信条にしようと 「やまいも」と命名したが、結局創刊号どまりだった。命名者のT君は先年他界した。

 先般心不全で救急車で病院に担ぎ込まれた時もゲラを手離さなかった。看護師さんに「あなたは何をしているのか」と聞かれ、本を作っているところだと答えた。看護師さんは怪訝そうな顔をしていた。が、「本」と聞いて看護師さんの私を見る日が少し変わったように思われた。「本」の持つ見えざる力を感じた。

 本書のタイトルは要領を得ないかもしれない。「点描」に書いた文章をテーマ別に分頸したら、「奇才」について書いたものが一番多かった。日経新聞電子版に「相場師列伝」を連載しているが、改めて思うことは相場師は皆奇才だということ。八百人を超す奇才たちのエピソードを発掘する作業はついに私のライフワークとなった。

 ふるさと「土佐」への思いは歳をとるとともに高まってくる。ここ十年余りは年に四、五回は帰っている。取材、ゴルフ、飲み会を兼ねた多目的帰省である。

 「啄木」の資料集めは今も続けているが、浩翰なる「啄木伝」を書くから口の大きい郵便ポストを用意しておいてくれと大見栄きったのは空手形に終わりそうだ。

 カバー、中扉の絵は本の中身とはミスマッチかもしれないが、妻ウタ子の作品である。(『あとがき』より)

令和2年初夏  鍋島 高明