平成24年月11日(月)(毎週月曜日発行)第1140号
      発行所 有限会社 先物ジャーナル社
      発行・編集人 高橋 伸幸
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日本テクノシステム


  
◇検証・産構審 日本の商品先物市場活性化へのハードル
◇"先物寸言" 東穀取の解散
◆"談話室" 市場には『加害者』も『被害者』もいない
◆"先物文化" 市場数字を心の目で読む
◆東京工業品取引所=「東京商品取引所」に社名変更へ
◆SBI FXトレード 最低証拠金4円のFX取引を開始
◆JCCH=12年3月期決算:純利益1億6400万円
◆FIAジャパン=7月25、26日、東京でコンファレンス
  「Japan Rising」を開催


検証・産構審 日本の商品先物市場活性化へのハードル
  
 今回の産業構造審議会も6月18日にいよいよ最終とりまとめを迎える。前回、事務局から提出されたこれまでの議論の整理資料を見ると、産構審が目指す現時点での「国際市場」の姿の一端が明らかになってくる。そんな「あるべき商品先物市場」はしかし、「今ある国内市場」とその関係者にとっては高いハードルを越えて、さらに遠い向こう側にあるようにも見える。そのハードルを越えるために求められるものは何か、検証してみた。なお、今回とりまとめられた資料は、すでに、経済産業省のホームページ上に公表されているので、参照願いたい。
(益永 研)
国際市場を求めるなら、政府自らも動け
 今回発表された資料の中には、電力取引など新規商品の上場、プログラムによる自動売買、外貨建て取引などの開発、あるいは当業者、海外事業者、証券・金融市場関係者など取引参加者の多様化、店頭取引の拡大とクリアリング等々、「国際的な商品先物市場」を目指すためのアイディアが列挙されている。
 さすがに、有識者の意見が集められただけあって、現時点で他の海外市場も追い求めている「あるべき国際市場の姿」がそこにはあるとも思えるのだが、問題は、それらを実現するために必要となる受け皿が今は無いということ。そして今後、実際に、誰が実行し、啓蒙していくかも判然としない。
 例えば、新規上場は、どんな取引所でも常に求められることだが、仮にどれほど魅力的な商品を上場しても、そこに参加する投資家がいなければ絵に描いた餅であることは、昨年上場されたコメ先物を見ても分る。
 これについて、ある商先業者の役員が、審議会の配布資料を見ながら、こう漏らす。
 「昨年、コメ先物が思うように成長しなかった時、商品業界人のある集まりで、農水省関係者が、『あなた方の要望で上場したのに、なぜやらないのか』と怒ったことがあった。両手両足を縛っておいて、今さら何を言っているのかと白けたものだ。上場はするが、その後の市場振興は業者任せというのが主務省の姿勢なら、机上の空論に付き合っている余裕は今の商品先物取引業者にはない。取引所だって、それは分っているはずだ。今は、下手に商品を増やさず、顧客も分散せずに、業界挙げて金のように必要十分な流動性がある商品だけに商いを集中すべきだとさえ思う。FXのように、若くて資金に乏しい投資家を誘致する事が認められるのであれば、ミニ取引も悪くないだろう」。
 むろん、同じ資料には今後、当業者や機関投資家、証券・FX会社、あるいは海外FCMやプロップハウスを含めた「多様な取引参加者」を呼び込み、これらの新規参入者にリクイディティ・プロバイダーの役割を担ってもらうことで、こうした「あるべき国際市場」の実現を期待するというシナリオも窺われるのだが、ここでも問題は、では、そうした異業種や海外からの新規参入を実現させるのは誰か、そのためにはどんな条件が揃わなければならないのかが明確になっていないということだ。
 「理想は立派だが、足元が見えていないのではないか」(商先業者)という声が聞かれるのも、実動部隊が見えないためだ。
 かつてはこうした「新たな市場参加者の獲得」もまた商品先物取引業者の仕事の一つだったが、これも、「手足を縛られた」形の目下の業者にだけ期待するのは難しい。かつては大手商社や穀物問屋、石油業者、あるいは海外投資家を精力的に営業して回った各社の法人部も、今の商品先物市場に、年金基金他の機関投資家やヘッジファンドを勧誘して来いと言われても首を振るだけだろう。むろん今でも、例えば、商品先物会社系証券会社の中には、海外業者への営業も含めて、法人ビジネスに力を入れようとする会社もあるが、1社、2社が頑張っても、マーケット全体の流動性や人気が浮揚するのは難しいのは同じである。
 かといって、取引所だけにすべてを期待するのもまた、現状では酷のようだ。市場としての魅力の減退に加えて、「例えば、東工取でさえ、海外マーケティング等については、イベントスポンサー料や、海外出張のための予算不足も顕著になりつつある」(商先業者)からだ。
 東京工業品取引所は、それでも頑張って、異業種や海外ブローカー、プロップハウスのマーケティングに動いてはいる。
 例えば、直近では、シンガポールの証券・商品先物ブローカー大手のフィリップグループの日本子会社であるフィリップ証券が、東京工業品取引所の市場参加者に加入した。これも、同取引所のマーケティング成果の一つと評価したいところだが、現実には、シンガポールのフィリップグループ本体の意向。それも、本格的参入にはまだまだ疑問符がつくという声も聞かれる。というのも、かれらが日本国内で抱えている個人投資家にとって、商品先物取引そのものが今は、それほど魅力的な投資対象ではないからだ。
 ある証券会社役員がこう語る。
 「例えば、金については、現物取引は雑所得扱い、先物取引は分離課税で20%だが、現物金を背景にしたETFなら、株と同じ10%の分離課税。税金だけで見ると、ETFが一番良い。少なくとも、証券会社として株の顧客に商品先物を勧める必然性はない。シンガポールのフィリップ本体は先物やオプションにも力を入れているから東工取市場にも少しは注文を出すだろうが、日本のフィリップ証券はもともと株式中心であり、かれらが商品先物取引を積極的に営業することは当面無いのではないか」。
 海外を良く知るある商先業者関係者もこう指摘する。
 「フィリップグループは今、シンガポール、マレーシア、米国だけでなく、中東やアジアの他の取引所などに積極的に会員加入して国際化を進めている。シンガポールでは、オイルや穀物の商品トレーダー誘致のために、税制やビザ取得などで優遇制度を設けているため、商品トレーダーも増えている。フィリップもかれらの注文を米国市場だけでなく、他の主要な市場につなぐ必要がある。しかし、流動性に問題がある今の日本の商品市場で取引するトレーダーはほとんどいないだろう」。
 仮に、日本政府が、こうした海外トレーダーたちのために所得税の優遇、あるいは米国先物市場と同様、「リクイディティ・プロバイダー」へのインセンティプなどを準備すれば別だが、そうした政府や取引所による優遇制度が一切無ければ、外貨建て取引や取引システムの向上、ダイレクトアクセスの推進、あるいは取引時間の延長といった市場機能を増やすだけでは、外国人トレーダーたちの参加にも限界がありそうだ。
 要するに、経済産業省・農林水産省が本当に、国内の商品取引所を「アジアのセンター」にするつもりがあるのなら、今回提言されている税制・口座の一元化は最低ライン。その上で、今回まとめている以上の制度整備を行う必要がある。日本が、商品先物市場を本当に必要とするのかしないのか、今後は、政府の本気度が試されることになるだろう。
 (2012年6月11日―第1140号)