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啓蒙活動を考える
沼野 龍男
 行きつけの喫茶店やスナックのマスターに筆者の寸言のコピーを配布し始めて約3年になる。これら番外の読者達からは、気心が知れている分、忌憚のないご意見を頂戴する。はじめは、「素人が手出ししてはならぬもの」、「生き馬の目を抜く業界」などとも言われた。いや今もこの先入観が完全に払拭されてはいまい。これら読者諸兄の疑問の多くと筆者のやりとりの一部をQ&Aで再現してみた。
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 Q1 先物取引では何故「枚」という単位を使うのか?
 Al 「枚」とは倉荷証券の枚数を指す。「倉荷証券」とは、一定の条件を整えた品物を指定倉庫(信用保持のため商品取引所が指定した倉庫に限る)で預かっている旨を証した、預かり証券と質入証券を兼ねたものをいう。
 たとえば、金の倉荷証券1枚は、東京工業品取引所が認めた重さ1sで純度が99.99%以上のバー(地金)を指す。売買単位1枚の内容は商品によって異なる。
 Q2 何故、倉庫会社と係わりがあるのか?
 A2 一般的な商品の流通では、買い手は売り手に代金を払い、売り手は品物を買い手に渡す。その都度代金と品物が原則として移動する。しかし、大量の商品を頻繁に移動させることは、保管場所の手当や品痛みを含めて極めて不経済だ。だから、品物は信用ある指定倉庫で責任を持って保管してもらい、最終的に品物を受け取る必要が生じたところが、証券に保管料を添えて指定倉庫に持参すればよいのだ。それ迄は倉荷証券だけが流通していく。倉荷証券は金銭と現物(商品)の両方の役割を果たしている。
 Q3 では、先物取引に参加した者は皆「倉荷証券」を持つのか?
 A3 先物取引は、将来の一定期日迄に決済をしなければならない取引なのだ。基本的には買った場合は期日が到来したら代金を支払って現物を受け、売った側は現物を渡さなければならない。しかし、決済日前にキャンセルする必要が生じた場合は、買い注文を市場で転売(てんばい、反対売買すること)して取引を終了することができる。これを手仕舞(てじまい)という。
 売り方の場合も同様で、反対売買(買い戻し)で取引をゼロ(手仕舞)にして終了することが可能だ。この一種の中途解約、キャンセルは、買い付け値段と解約時の転売値との差額で損益を計算し、その授受をもって清算する。(売り付けの場合はこの逆)。現物の受け渡しをしないで反対売買で決済されるので、これを「差金決済制度」といい、先物取引の大きな特色だ。
 投機家は、色々な情報を分析し、取引手法を駆使して、値上がり期待で買い、値下がりを予測すれば売り、自己責任において自らの利益目標と損失許容額の間で積極的に行動する。投機家の売買は差金決済が多い。
 Q4 先物取引をするのは投機家だけではないのか?
 A4 取引所で扱う商品の生産者、加工業者、商社、海外の輸出業者など多岐にわたっている。取引所を通じて商品を販売しようと思えば、品質検査を受け規格品として合格し、指定倉庫に保管しておけば、市場で売ることが可能だ。東南アジアのゴム生産業者は、日本の取引所の取引をいたく信頼している。公正で、換金が確実だからだ。
 輸入商社が、海外で商品を買い付けると同時に、日本の先物市場で同等量を売りつなぎ(ヘッジという)、将来商品が値下がりした場合の損失を先物取引の利益でカヴァーする取引は特に重要だ。たとえば、日本で味噌、油、正油などの大豆製品が安定供給されている背景には、この取引が働いている。
 先物取引市場があるから、価格が変動するのではなく、地震の予知の様に、将来の価格変動を予報し、消費者を含めて経済活動における価格リスクをカヴァーしてくれる大切な存在であることを知ってもらいたい。投機家の存在は、これら大切な経済機能を円滑に進める上で不可欠なのだ。
 Q5 多様な参加者の取引がちゃんと識別されているのか?
 A5 全くされていない。あらゆる参加者の売買、数量は全て同等に扱われ、差別されることもない。注文を市場に出した時間は優先されるが、それ以外は全く同等に処理される。

 「なぜ枚なのか?」と問われて応答していくことが、先物取引の本質を伝える上で極めて大事なことと気付かされた。
 「今日の出来高はナンマイダ、ナンマイダ(何枚だ)」と念仏の如く唱えるだけに終わっては淋しい。従来の情報発信が自己満足的だったのではと反省する。
 啓蒙資料として欠かせないものがある。近代の著名人が相場と思わぬ係わりを持つことになる話だ。赤貧の樋口一葉が相場で何がしか儲け、家計を立て直して創作を続けたエピソード等々。市場経済研究所の鍋島氏にお願いして10名分位の著作権を譲って頂き、業界の共有財として幅広く活用してはどうだろうか。ボリュームも1000字位で丁度よい。