平成24年月3日(月)(毎週月曜日発行)第1151号
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日本テクノシステム


  
◇特別報告・中国先物業界
  「国際化」睨み、動き出す北京の主要大手商品先物会社
    システム取引、アセットマネジメントなど、
     米国型ビジネスで次のステップ狙う
◇"先物寸言" 東穀は死んでも先物は不滅〜先人の苦労を無にするな
◆東穀取・農産物先物振興に新たな試み
  東京MXテレビで農産物情報提供
◆再発見・日本の相場技術in China
  林輝太郎氏の著書17冊、中国で出版決定


特別報告・中国先物業界
「国際化」睨み、動き出す北京の主要大手商品先物会社

 システム取引、アセットマネジメントなど、
 米国型ビジネスで次のステップ狙う
  
 8月25日から28日までの4日間、北京を訪問した。今回、取引所のある大連や上海でなく北京を訪れた理由の第一は、わが国の株式・商品先物市場を対象として20冊以上の著作を遺した故・林輝太郎氏の本が来年以降、中国で17冊出版されることになり、その発行者である地震出版社(張宏社長)と著作権者の林投資研究所(林知之社長)の契約合意を取材(2面参照)する機会が与えられたからだが、もう一つの理由は北京には、中国金融・先物市場を代表する主要大手ブローカーの本社が多く、その政策・企画担当者たちにも取材するチャンスを得たことだった。今やシカゴ商品先物取引所を出来高で抜く勢いの中国の商品先物市場の現在と将来について現地で取材した。
(益永 研)
 へッジャーと大手自己トレード・グループがぶつかる穀物市場
 前回号でも紹介したが、今年に入って、中国の穀物市場の活況ぶりが欧米の先物関係者たちの間でも話題になっている。例えば大連商品取引所の大豆かすや大豆油の出来高は昨年来、シカゴ商品取引所(CBOT)のそれをも上回る勢いが続いており、これはかつてわが国の東京穀物商品取引所がCBOTを凌駕するのではないかと米国の先物関係者たちが色めきたった時代の雰囲気とも重なる。
 その理由について、欧米の先物関係者たちに尋ねると、これもかつての日本同様、「何よりも個人投資家の売買が大きい。投機だけの市場だと見ている」という答も少なくないのだが、今回、北京の商品先物会社5社を実際に訪問して話を聞いてみると、単純にそれだけというわけでもなさそうだ。
 確かに、市場参加者たちを見てみると、かつてのわが国とよく似た構図はある。
 自身もシステム・トレーダーである林輝太郎氏の本の翻訳者、毛蘭頻氏はこう語る。
 「一方に穀物商社を中心にしたヘッジャーたちがいて、もう片方に個人投資家がいる。そして、個人投資家たちの中心には、大手の仕手グループがいて、たがいに莫大な枚数でせめぎ合っているのが、今の穀物市場」
 この構図は80年代から90年代にかけて三井、三菱、丸紅など大手商社が活発に取引していた頃の東穀取市場と同じといっていい。決して、個人投機家だけの市場ではないということだ。
 中国の大手穀物商社COFCOの商品先物会社、国投中谷期貨有限公司(SDIC)のある関係者もこう語る。
 「今年は、米国の干ばつによる生産高減少懸念で、中国内でも生産者だけでなく、流通・加工業者も含めて先物市場でのヘッジが昨年以上に活発だった。わが社は、こうした法人顧客が95%以上を占めるが、最近は国内の大手自己トレーディング・ハウスや海外の穀物トレーダーたちからの注文も増えている。市場参加者の中には、日本の商社も含む海外穀物商社もいる。市場参加者の内訳を正確に見ているわけではないが、人数的には個人投資家が多く、資金的にはこれら法人による投下資金の方が多いというのが実状ではないか」
 では実際に、中国先物市場における個人投資家の数はどれほどになるのか。
 先物協会の理事でもある大手商品先物会社の副総経理は、こう語る。
 「株式市場の個人投資家数は約1億人、先物市場は100万人というところではないか。わが社の例で言えば、顧客の95%は個人投資家で、法人顧客が残りの5%。しかし、資金量で見れば、法人顧客が51%以上を占める。法人顧客の中には、数人のグループで2億元(約26億円)以上の資金を預けているケースもある」
 一部関係者が、「仕手」という表現を使うのは、こうした投資家グループのことに違いない。

 海外⇔中国の投資自由化は必然的
 ちなみに、中国商品先物市場への海外からの取引については、すでに一定の要件を満たした法人については直接参加が認められている。それでなくても、中国国内に生産、加工、流通などを目的とした法人を現地会社と合弁で立ち上げて、政府(CSRC)の許可をとれば先物取引にも参加できるという。
 一方で、個人投資家の海外からの参加、逆に海外市場での取引についてはまだ開放されていない。これについて今回の取材で、複数の先物関係者たちから聞かれたのが、「来年以降、われわれが考えている以上に早い時期に、海外の個人投資家による中国商品先物市場への取引参加は開放されるのではないか」というコメントだった。
 実は市場開放については5年ほど前にも、同様のコメントを聞いたことがある。当時、中国の先物会社として初めて、海外法人からの受注を認められて香港に進出したグリーン・フューチャーズ他5社を香港で取材した時の話だが、結果的にはいまだに実現していない。
 ただ今回は、当時と比べてもっと可能性が高いと、関係者たちは漏らす。
 「商品先物市場の拡大と国際化は、中国政府の政策の一つになっている。国内市場が整備され、参加者たちのレベルが高くなれば、当然開放に向かうと考えている」と、ある大手商品先物会社の総経理(社長)も語る。
 「例えば、海外にはプロップハウスと呼ばれるプロのトレーダーたちも数多いが、かれらが中国に会社を作り、欧米でやっているのと同じ取引を試みたいという話はすでにある。開放されれば、次の段階では、自国の端末から取引できる。あるいは、すでに取引を始めている会社もあるのではないか」。
 中国の当局者に聞かせて良いか悪いかも分らない話だが、少なくとも流動性低迷で、身動きが取れなくなったわが国のプロップ・トレーダーたちには聞かせたい話ではある。
 前出の毛氏が言う。
 「個人投資家の中には、熱心に勉強して大儲けしている投資家もいる。実際に、ある商品先物会社の社長は、約700万円の元手を25億円にまで増やして、商品先物会社を作った。そんな個人投資家は結構いる。だが、大半の個人投資家は、ヘッジャーと仕手グループの間で少額を賭けては負けているのが実状だろう」。
 要するに、個人投資家の取引レベルは、まだプロのトレーダーたちにはかなわない水準にあるということだ。その意味では、日本や米国の商品先物市場で、プロ同士で競合しているわが国のプロップ・トレーダーたちにも夢のある市場ではないか。
  
 中国市場での商品先物ビジネスの実状
 中国の商品先物取引所は、95年の法改正以降、全国に3取引所(大連、上海、鄭州)だけとなり、商品先物業者数も大幅に制限された。商品先物業者の数は現在156社。欧米の先物業者がよく口にする「中国のIB」という存在は、中国関係者によれば、「法的には認められていない」のだそうだ。
 取引はインターネットを介しての電子取引。新規顧客の導入については、電話・訪問による投資家勧誘はビジネス的に効率が悪いのでしない、また電話で勧誘できるような客も「まずいない」(商品先物業者)という答が大半だった。
 といって、不招請勧誘禁止といった規制があるわけでもない。基本的に、「投資家は株も商品先物も、面白いと思えば自分で勉強して、自分で口座を開く。逆に、電話で勧誘されても、簡単に信用しないのが中国人だ」(前出・毛氏)という。これは、日本の投資家たちにも聞いてもらいたい言葉ではある。仮に負けても「業者に騙された」という言い訳は通用しないということだ。
 ただ実際には「新しく口座を開く際には、投資家同士で情報交換し、業者を紹介してもらうことが多い。そうした人間的なつながりがなければ、インターネットだけで取引を始める気にはなれない」(毛氏)のも事実のようだ。
 手数料は安い。例えば、ある商品先物会社の大豆かすの場合、取引所フィーも含めて往復20元(約260円)。といっても、コーラ1瓶2元(約26円)、缶ビールでも6元(約78円)で買える国なので、20元はそれなりに高いということになるかもしれない。だが、いくら取引高が増加し、あるいはインターネット取引だからといっても、ブローカーの収益性としてはどうなのか、心配になる数字ではある。
  
 数十種類の取引システムを提供する会社も
 それについて、ある商品先物会社では、「最近は大手と中小の会社格差が開く傾向がある」という言葉も聞かれた。
 むろん、大手だからといってすべて順調ということもないだろうが、少なくとも大手で名前が知られていれば、初心者もインターネットなどを通じて安心して口座を開くケースは多いだろう。顧客資産と手数料収入が安定していれば、様々な実験的試みもできる。
 例えば、最大手の商品先物会社の一つである中国国際期貨有限公司(CIFCO)は、通常の商品先物取引と共に、わが国のFX会社が提供しているのと同様の「取引システム」も数十種類提供していて、顧客ロビーには、そのシステムの取引内容や成績を見ることができるモニターも並んでいる(右下写真参照)。
 そのプログラムの内容は、例えば個別商品を対象に、移動平均線を利用するトレンドフォローシステムなどシンプルなものが大半のように思えたが、それでも今回訪問した業者の中では珍しい試みではあった。
 ただ、毛氏(前出)によれば、自分自身でシステムを構築して取引を行う個人投資家も少なくないようで、投資家サイドにも格差は開きつつあるようだ。
 他にも、ある大手商品先物会社では、「アセットマネジメント・ビジネスを模索中だ」といい、別の会社では、「独自にトレード・スクールを開設し、若いトレーダーの教育を目指している」という話もあった。後者については現在、受講生がいないので休校中とのことだが、こうしたスクールの卒業生の中から、大手の自己トレーデイング・ハウス経営者が生まれたこともあったというから、僅かな間に、これまで米国や日本で展開されてきた様々なビジネスを一気に試みてしまおうという意欲が感じられる。
  
 米国仕様の中国先物市場
 今回の取材では、「日本の商品先物市場はなぜ、あれほど大きく落ち込んでしまったのか?」という質問を一部関係者から受けた。それに対して、筆者は自分なりに@FX市場の興隆、A商品先物取引に対する偏見、B勧誘規制を含む二度にわたる制度改正、C投資家自身の投機意欲減退等を説明したが、その都度感じたことが一つある。
 それは、質問した関係者にしても社交辞令含みであり、日本市場には実はそれほどの関心はないということだ。そもそも日本市場について何も聞かない関係者も多かったことも併せて考えれば、目下の中国における日本市場に対する興味の薄さが分かる。
 事実、「われわれは、アメリカ市場を追いかけてここまでやってきたから、日本については知らない」とはっきりと語る関係者もいた。日本政府が「日本市場をアジアの金融センターに」と言うのは自由だが、少なくとも商品先物市場については、はや一部の中国人関係者の眼中に日本はないと言わざるを得ない。
 日本は制度改革や当業者の導入など、官民挙げてこれまで以上の市場振興を図らなければならないだろう。
 例えば清算に関することもその一つ。中国市場はすでに指摘したように、一から十まで米国型。証拠金も、米国同様、ブローカー名義の分離保管口座に保管され、定期預金に回される証拠金の金利はブローカーが基本的にとる。少なくとも、顧客資産を100%清算機構に預託。金利収入は清算機構がとり、その金利収入の一部は清算機構の運営資金にも使えるという目下の日本の商品先物市場の清算制度には、米国や中国の清算ブローカーは納得しないはずだ。
 (2012年9月3日―第1151号)