平成24年10月8日(月)(毎週月曜日発行)第1156号
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日本テクノシステム


  
◇東京金融取引所「くりっく365」の興亡と攻防
◇"先物寸言" 特定商品などと呼ばれたくない
◆"先物文化" 脳の地図と「かのやうに」
◆"アングル"
 ・商品先物先覚者たちがJPモルガンのエネルギー取引会社を買収
 ・金価格は過去10ヵ月間の最高値
 ・パーム油は3年ぶりの安値


東京金融取引所
「くりっく365」の興亡と攻防
  
 東京金融取引所(以下金融取)のFX取引、くりっく365の取引数量の減少が止まらない。2011年には1日平均52万6744枚だったのが、今年4月には同25万4255枚と半減し、8月にはついに16万1523枚と20万枚を割り込んだ。9月の月間取引数量も325万4300枚(1日平均16万2714枚)、前年同月比69.5%減と浮上する気配はない。店頭FX業者からは「正当なFX取引を提供するという取引所の当初の役割は終えた」という声も聞かれ始めた。為替市場の環境変化に加えて、税制が変わり、店頭FX業者との競合も激化する中、くりっく365の再浮上はあるのだろうか。
(益永 研)
 取引高低迷は店頭FXも同じ
 くりっく365は2005年7月、改正金融商品取引法の施行と同時に、「公的取引所取引」、「透明・有利な価格とスプレッドの提供」、「売買スワップ同額」など、当時の店頭FX業者との差別化を明確に打ち出した謳い文句でスタートした。
 中でも最大のPRポイントは「優遇税制」だった。20%分離課税、3年間の損益通算、他のデリバティプ取引との損益通算という「優遇税制」は、当時、くりっく365だけの専売特許で、その導入に際しては店頭FX業者からは「差別政策ではないか」との声も聞かれた。
 しかし、当時は店頭FX業者が400社以上も存在しており、その中には、異常に大きなスプレッドを提供したり、注文時に価格をずらす(スリッページ)ことなどで不当な収益を上げる悪質業者もいたことなどから、取引所へのこうした優遇措置があっていいという意見も少なくなかった。
 とはいえ不招請勧誘禁止、顧客資金の国内信託化やレバレッジ規制といった相次ぐ規制強化と、業者内での激しい競合によって、店頭FX業者数も69社(今年8月にFX取引実績のあった金融先物取引業協会会員数)に減少し、各業者の出すスプレッドもまた大幅に縮小した今では、「正当なFX取引を提供するという取引所の当初の役割は終えた」(店頭FX業者)という声も聞かれ始めている。
  
 ある大手ネット証券のFX担当者が言う。
 「取引所取引といってもこれまでシステム障害や、マーケットメーカーによる価格トラブルがなかったわけでもない。基本的には、くりっく365も店頭FXと同じ仕組みであり、同じ課題を内包している。税制面で横並びになった今、くりっく365の市場参加者であるブローカーにとっても、営業メリットはほぼなくなったといっていいのではないか」
 別の大手ネット証券のFX担当者も言う。
 「もともと、くりっく365もワン・オブ・OTC取引だと考えれば、税制という条件が同等になった今からが本当の勝負。くりっく365の投資家もまた、改めて商品性、サービス、取引コストなどで使う業者を選別し始めているところではないか」
 少なくともくりっく365がこれまで以上に店頭FXとの厳しい競争にさらされることになったことだけは間違いなさそうだ。
 ただ、実のところ、店頭FX業者についても、金融先物業協会が毎月発表している店頭FX業者53社の取引金額を見ると、今年8月は110兆2181億円と、昨年8月の155兆87億円よりむしろ減少している。くりっく365との税制格差がなくなったからといって、その分、取引金額が飛躍的に伸びているわけでもないということだ。
 そう考えると、今年に入ってからのくりっく365の取引数量の減少もまた、単に先進各国の金利低下や円高というマーケット環境の悪化によるものだと見えなくもない。

 金融取とFX業者の攻防
 ただ金融取自身、こうした環境の悪化は十分に感じているようで、今年度に入りマーケティング部門の強化、主要通貨ペアの為替レートの3桁化によるスプレッドの縮小や取次業者の参入促進などビジネスモデルの改革に着手している。
 この内、「取次での海外・国内顧客参加による流動性向上」については、「BtoBによる取引参加に期待している」(金融取関係者)という。これは、すでに発表されている同取引所の今年度の業務指針の一つでもあり、取次業者については、これまで純資産によるハードルなどで、くりっく365に参入できなかった中小FX業者も想定されている。
 23社あるくりっく365の取り扱い業者の中には、FX業者を回り、取次受託の話を奨めている業者もいる。取引所FXは電話・訪問勧誘ができる(再勧誘禁止)点に魅力を感じる業者の取次参加もありそうだ。
 一方、店頭FX業者の間では今、一部業者が導入しているMT4やMT5を使った自動システム取引やバイナリーオプション、あるいは最低取引額の小額化といった新たな戦略が始まっている。取引所が、こうした店頭取引ならではの分野にまで手を伸ばすのかどうかは不明だが、「くりっく365」自体が、従来の取引所取引の枠を超えたところからスタートしただけに、今後の進化の有無も注目したいところだ。ある商品先物取引業者関係者は、こう指摘する。
 「金融取は、優遇税制も含めて、ある意味で政府の後押しでくりっく365をここまで成功させてきたように思う。商品市場についても、取引所が今後成功するためには、金融取のように政府による優遇があってもいいのではないか」。
 商品先物市場については、8月29日の衆議院・財務金融委員会で、改正金融商品取引法案に反対した共産党議員(佐々木憲昭委員)のように「穀物・エネルギーなどの商品市場に投機マネーの流入をさらに促進させようとしているから反対」などと、否定から入る政治家もまだまだ多い。
 だから政府の後押しもまだ、現時点では期待薄ではあるのだが、それでも海外市場との競合という点を考えれば、今後は、取引所取引に対する後押しを官民一体となって考えるべきだ。金融取「くりっく365」の過去と今を見ていると、それもまた、可能なのではないかと思われる。
 (2012年10月8日―第1156号)