平成24年11月19日(月)(毎週月曜日発行)第1161号
      発行所 有限会社 先物ジャーナル社
      発行・編集人 高橋 伸幸
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日本テクノシステム


  
◇経済産業省=2014年度にLNG先物取引上場へ
実務者協議会で来年3月までに制度検討
◇"先物寸言" まわりの心が分からない人
◆東工取・江崎社長会見=商品取引の魅力高めるためのさらなる制度改正に期待
◆先物協会=会費を3年間で引き上げへ
◆日商協=2012年第二期 日商協ゼミナールを開催
◆中国先物市場=外国人投資家への市場開放急ぐ
◆ブラジル先物市場=商品からデリバティブへ
◆"談話室点" 商品先物業界の変化を示すのは?


経済産業省=2014年度にLNG先物取引上場へ
実務者協議会で来年3月までに制度検討
 
 経済産業省は11月13日、2014年度をめどに液化天然ガス(LNG)の先物市場を創設する方向で検討に入ったと発表した。天然ガスは、CO2(二酸化炭素)の排出量が他の化石燃料より少ないことから東南アジアでも需要が伸びているが、その価格は、天然ガス(気体)のパイプラインを持ち、しかも市場で需給を反映する価格機能を持つ欧米より2〜6倍高い価格で取引されているのが実情だ。日本はLNGの世界最大の輸入国であり、需要が伸びているアジアの中でもずば抜けて大きい。2011年実績でもシンガポールの取扱量350万トンに対して、20倍超の約8000万トンを輸入している。日本が先物市場を創設すれば、アジアの需給に見合った価格を形成できるハブになる可能性がある。経産省では、東京工業品取引所に上場することを前提に、14日か電力・ガス会社や商社、取引所などによる実務者協議会を開き、来年3月までに計5回、制度の枠組みなどを検討する。
(益永 研)
拡大するアジアの天然ガス市場
日本のLNG輸入量は現在、世界の35%を占めている。第二位の韓国が15%、あるいは中国・台湾がそれぞれ5%であることを考えると、アジアにおけるLNG需要は本来、世界のLNG価格形成材料の一つとなっていてもおかしくない。
 しかし現在、LNG取引は国際メジャーが仕切り、産出国も長期契約を求めるため、価格が下がりにくい構造にある。日本を含むアジアの天然ガス価格は、今年9月時点で100万BTU(英国熱量単位)当り16〜18ドル。一方でパイプラインでつながる欧州は8〜10ドル、シェールガス革命で大きく値下がりした米国は3〜5ドルで、欧米に比ベると、アジアの企業は、2〜6倍高いコストで調達していることになる。
 特に日本は、東京電力福島第一原発事故以降、火力発電用燃料として需要が急増し、震災前の月300万トンから、今年は最大500万トンにまで増えており、今後も増える可能性があるため、安定供給を求めて、長期契約で割高な天然ガスを購入しているという指摘もある。パイプラインで気体のまま取引される欧米市場と、液化してタンカーで輸送する日本とではコストが異なるのは当然といっても、欧米の天然ガス価格がこれだけ安いのは、米国に天然ガス先物市場があり、市場取引を通じて、需給が瞬時に反映されるためだ。
 日本にも先物市場を作れば、高すぎるアジアの天然ガス価格を、引き下げられる可能性はある。
 ただ、LNG先物市場創設を検討しているのは日本だけではなく、シンガポールもまた意欲を見せている。というのも、現在は150%あるASEAN(東南アジア諸国連合)地域の天然ガス自給率が2030年には100%を割り、ASEAN全体では輸入に転じると見られているためだ。
 アジア各国では、環境問題への関心の高まりを背景に、これまでの石炭火力発電に反対する声が各国で高まっている。そのため、インドネシア、タイ、マレーシア、ベトナム、フィリピン各国ではLNG受け入れ基地を設立するなど今、天然ガス利用を拡大させる流れにあるともいう。
 現在、天然ガス輸出国であるインドネシアを始めとして、東南アジアの国々も今後、天然ガス利用を拡大するとすれば、LNG先物市場は、東工取だけでなく、シンガポールにとっても大きな可能性を秘めているということだろう。
 LNG先物で、シンガポールを上回る市場をいち早く創設することができるのか、そしてどれだけ多くの市場参加者を導入できるのかは、東工取にとっても、今後の行方を占う大きな材料の一つだといえるだろう。

 活性化の契機に
 ただ、縮小が続く東工取市場の現在の参加者である多くの商品先物取引会社からは、「今は新規上場どころではない」(商品先物会社トップ)というつぶやきが聞かれるのも事実だ。
 「石油製品が上場された頃と比べても、国内投資家たちの商品先物市場に対する関心は薄れている。それは個人だけでなく、当業者も同じだ。今の商品市場にとって何よりも必要なのは既存の商品の流動性であり、そのためにもこれまでの商品先物市場と業界のイメージを根本から変えなければならない。それなしでいくら新しい商品を上場しても、コメと同じ結果にしかならないと思う」(商品先物会社法人部関係者)という醒めた声もある。
 経産省は、まずは売り手である天然ガス産出国と、買い手である日本企業とが実際にLNGを売買する市場としてスタートさせ、将来的には、ニューヨーク原油先物市場のように、多くの投資家が参加する厚みのある市場にさせたい意向だが、そのためには「流動性確保が第一。新規上場するなら、これまでの国内現物市場の値決めの正当性から問い直す必要がある。これまで通り、現物業者が消費者に価格転嫁するだけのビジネスを第一に置くのであれば、そもそも先物市場など必要とされないだろう。LNG価格の引き下げだけが目的なら、北米からの安いシェールガスの輸入など、現物市場でクリアできる部分もないではないという当業者もいるだろう」という声もある。
 実際、コメは、国内で流通の6割を扱う農協(JA)グループが不参加を決めただけでなく、先物市場を「ギャンブル市場」と決めつけたことや、今も市場廃止を唱えているために取引が低迷し、商品先物取引全体のイメージにも暗い陰を落としている。既存の現物市場の価格決定メカニズムが変わらないまま、市場取引による価格形成を推し進めるのは困難だ。
 LNGについても、市場原理に基づくアジア価格形成という政府の理念は良くても、電力会社などの当業者による先物利用を実現することに失敗すれば、国内での商品先物市場の評価はさらに下がってしまう可能性もある。そして、少なくとも、既存の商品先物会社だけでこうした大手当業者を説得するのが困難であることは、コメで証明されてもいる。
 ただ、アジアでさえも市場取引化が進む中で、わが国だけがそれを無視し続けられるものでもない。その意味で、来年3月まで実務者協議会では、こうした商品先物市場の足元についても見つめ直した上で、活性化に向けた議論を期待したい。
 ちなみに14日に開かれた第1回協議会では、東工取と日本商品生産機構など5団体が先物市場での取引を清算、LNG取引の概要などをプレゼンした。第2回会合は12月6日に海外先物市場でのリスクヘッジについてプレゼンがある。
 (2012年11月19日―第1161号)