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取引所統合のコンセプト
杉江 雅彦
 欧米では証券や商品の取引所を重要な経済インフラと見倣し、公営組織(主に欧州)もしくは会員組織(主として米国)で運営してきたという歴史がある。公営組織は中央や地方政府の管轄下にあり、また会員組織は取引所メンバーである業者の思惑が錯綜して、取引所同士の合併や買収はほとんどみられなかった。ところが、取引所の規模拡大やシステム投資など巨額の資金が必要となっても、意思決定に手間取って取引所間競争を乗り越えることが困難となるケースが多かった。そこで、意思決定の迅速化と資金調達の円滑化という二大目的を達成するために、取引所の株式会社化が進行したのである。
 そうなると、他の取引所との合併や買収に際しても、取引所間の合意形成による株式の移転、あるいは友好的ないしは敵対的TOBなどの手段によって、その目的を達成することが容易になる。しかもグローバル化の進展にともなって、国内での合併よりもむしろ世界的視野で国際間の統合を選択する道を選ぶという事情もある。取引所が株式会社化され、しかも取引所株が公開されたことにより、取引所の評価尺度が従来の上場会社数や上場会社の株式時価総額から取引所自身の株式時価総額に変わってしまった。この点は証券取引所だけでなく商品取引所も同様である。
 世界の有力な取引所が株式時価総額で優劣を競うとすれば、利益を上げるためにコストパフォーマンスが高いデリバティプ商品で勝負するのが手っ取り早い。
 NYSE(ニューヨーク証券取引所)のように、もっぱら現物証券を売買してきた証券取引所が再び世界の王者に返り咲くために、ドイツ取引所と統合してデリバティブ市場を手に入れようとしたのがその好例である。しかし、これに対してEUの欧州委員会が両者の合併を承認しなかったため、滞っていたICE(インターコンチネンタル取引所)との間で交渉を再開させ、このほど合意に達したという経緯がある。
 NYSEグループとしてはドイツ取引所との間でも、またICEとの交渉でも、いずれもNYSE側が“買収される”という不利な条件を呑んでの統合であることに注目したい。そこまで譲歩しても生き延びたいとのNYSEグループの切実な危機感の現れだからである。
 さてそこで、日本取引所の発足に目を移して考えてみたい。
 東京証券取引所が大阪証券取引所との合併に踏み切った背景のひとつの重要なポイントは、大証が長年にわたって培ってきた株価指数先物のノウハウであることは間違いない。
 新しく発足した日本取引所が世界の主要取引所と伍して戦うには、なんといっても株価時価総額を拡大しなければなるまい。同所が発表した中期経営計画では「アジア地域で最も選ばれる取引所」を目指すとのことであるが、時価総額はアジアでは香港取引所が断トツで日本取引所は遠く及ばない。当面はシンガポール取引所に追いつくことを目指さなければなるまいが、そのためにはデリバティブ市場の強化が欠かせないことはすでに述べた通りである。
 日本取引所は証券と金融デリバティブにとどまらず、商品デリバティプも扱うことが可能であるから、いずれはこの分野にも進出してくるにちがいない。しかし、取引所の統合によって株式時価総額をふやすためには、デリバティブの積極的活用が不可欠であることは世界の現状をみても明らかである。
 現在ある二ヵ所の商品取引所をみる限り、日本取引所が触手を伸ばすだけの魅力に乏しいことはいうまでもない。商品取引所が独力で生き続けることが困難である以上、日本取引所の傘下に入ることができるだけの魅力を早期につけておかなければなるまい。そうでなければ、日本取引所は海外の商品取引所との統合を選択するに相違ないからである。