平成25年月22日(月)(毎週月曜日発行)第1181号
      発行所 有限会社 先物ジャーナル社
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日本テクノシステム


  
◇東商金先物急落 先物市場の2日間 
◇"先物寸言" 取引所統合のコンセプト
◆東商=日経・東商取指数 連動ETNを上場
◆大阪堂島取=第一回コメ試験上場 検証特別委員会開催
◆東商取農産物・砂糖市場 取組高増加キャンペーン
◆エース交易=第一種・第二種金融取引業を廃止
◆"アングル" 下がる食品価格


東商金先物急落 先物市場の2日間
 
 4月12日金曜日の夕方から翌週16日火曜日早朝までのほぽ2日間で、東京商品取引所の金価格は1g当り757円下落した。10日に引き上げられたばかりの金(標準品)の証拠金(スキャンレンジ)1枚13万8千円に対して、約75万円以上の損益が発生したことになる。しかし、一時は「阿鼻叫喚」の事態も予想されたこの金の急落にも関わらず、火曜日以降の反騰もあって、個人投資家の多くは目下のところ比較的冷静に対処しているようだ。商品先物関係者からも「損を出したお客様も、不足証拠金を比較的スムーズに振り込んでくれている」という声が聞かれる。とはいえ9日に35万枚を割り込んだ商品取引所全体の取組高は、17日にはさらに32万3351枚にまで落ち込み、18日も引き続き減少している。
(益永 研)
 明暗分けた夜間取引
 東京商品取引所の金価格は、4月12日金曜日の日中取引の引け値5000円(1g)から、翌土曜日午前4時までの夜間取引で4781円まで急落した。150円のサーキット・ブレーカー(CB)1回を挟んで219円の下げだった。
 12日は、ニューヨークCOMEXの金6月限もオープニングから現物に換算して340万トロイオンスオンス(100トン)の売り注文が出されて下落。しかもその30分後には、新たに「メリル・リンチのブースから1000万トロイオンス(300トン)の売りが出てくる」という噂が流れたために、あきらめた買い方の手仕舞い売りが殺到。一気に2012年の最安値だった1540ドル(1トロイオンス)を割り込んだ。出来高もピークとなった。400トンの金といえば、年間産出量のおよそ15%に相当する。どう考えても大き過ぎる数字なのだが、ニューヨークでも比較的流動性が高い朝一番の商いだったために、そんな噂も信びょう性があったようだ。
 COMEXの親会社であるCMEが、昨年11月に金先物の証拠金を、それまでの1枚9133ドルから7425ドルと10%下げたままでいたことも、急落を助長した。
 ニューヨーク市場の急落は、夜間取引に入っていた東商取の金先物市場も直撃。冒頭に書いたように、CBを発動するほどの急落となった。最近は海外玉やインターネット取引玉を中心に取引高が増えてきたとされる東商取の夜間取引だが、この日はCOMEXの急落に合わせて東商取でも売ってきた海外トレーダーたちも少なくなかった。「大波に巻き込まれた小舟の状態」(商品先物関係者)だったに違いない。
 「24時間取引は、いつでも出口がそこにあるという意味で、必要な制度。しかし、今回のような急変の時には、ザラバだから下手に自己玉でぶつけて救うこともできないし、そこにもってきて、CBが発動されては新親の買いが出てくるはずもなく、逃げ場が無かった」(同上)ことも急落の一因になった。
 そして週明け月曜日の15日。午前9時に4730円で始まった金は、日中取引で4592円まで下がり、そして4554円で始まった夜間取引では再び2回のCBが発動されて、翌16日朝4時には4243円で引けた。金曜夕方からたった2日間で757円も下げたことになる。
 ただ、15日に、モニターに張り付いて板画面を見ていた関係者によれば、これだけ続落する中でも買いが散見されたといい、それらの買いが万一、買い玉を抱え込んだ投資家のナンピン買いだったなら、その損失はさらに膨らんだことになる。
 最終的に、この日も夜間取引で2回のCBが発動され、16日火曜日の朝9時には前日の3時半の段階で証拠金不足になり、入金されなかった買い玉の強制決済がほば決まり、それから瞬間的に4132円台がついた後は、売り方の利食いもあって金先物価格は反騰するわけだが、この2日間、買い玉を残した顧客を抱えたある商品先物外務員からは、「夜間取引はリスキーだ。少なくとも、夜間取引についてはストップロスが確実に執行されるように取引所も何か工夫してもらえないだろうか」といった嘆き節も聞かれた。
 しかし、翌17日も引き続き上がって相場が落ち着くと、18日にはこの同じ外務員から「今回は、CBに引っかかって損を出した顧客もいるが、その方たちもスムーズに追証拠金を入れてくれている」など、比較的冷静な声が聞かれ始めた。
 現実には、各社とも予想以上に足が出た投資家はいただろうし、仮に「回収不能」の投資家がいても商品先物関係者として軽々しく口に出せるはずもないだろう。
 だから、18日以降に関係者から聞く話は、例えば、「今回はテクニカルでもファンダメンタルズでも下げる可能性がある局面だっただけに、『納得が行く』と言われるお客様が少なくなかった」(商品先物会社管理担当者)など、顧客の反応も決して悪くないというコメントが多くなっている。

 成熟した個人投資家の姿も
 実際には、個人投資家の中にも、今回の下げで売り、大きく儲けたという話も少なくない。
 「少なくともわが社は、基本的に預託される資金に余裕を持って取引していただいているお客様が多かったことと、今回の金については、テクニカル的にもファンダメンタルズ的にも下落する可能性のある局面だったことを理解されていた投資家が多かったのが幸いした。何より、売りで大儲けしたお客様も多かったのが良かった」など、顧客の成熟度の高さを評価する声もある。投資家も今頃は価値の下落に肩を落としていたに違いない。その点、金先物は金地金保有者の「リスクヘッジ」となることが証明された2日間ではあった。こうした話は、もっと多くの金地金保有者にも伝えたいものだ。
 別の外務員も言う。
 「あるお客様は、週末に買い玉を整理せずに土曜には大きな損を出したものの、月曜には朝一に売りを仕掛けて、16日午前中に買い戻して利食いし、下がったところで改めて買い直された。結果的にこの方は、16日と17日の上げで12日の夜間取引の損の半分以上は取り返した」
 今、商品先物市場は勧誘規制の影響から、未経験者の新規参入は「外務員一人当り、3ヶ月に1件のペース」(商品先物会社)にまでスローダウンしているといわれている。しかし、若いインターネット利用者の中には、セミプロ級の商いをする個人投資家もいる。そんな投資家なら、確かに、このくらいの売買はやりこなすかもしれない。
 こうしたコメントを聞いていると、前向きに過ぎると笑われることを覚悟で、法改正後の2年余り、外務員たちが既存顧客を大切にしてきた結果、売りの活用も含めて顧客の習熟度を高める成果を出したのではないかと言いたくもなる。
 少なくとも、古い商品先物会社のイメージはそこには無いと言っていいだろう。
 前出の外務員は、こうも指摘する。
 「40キロの地金を持っている投資家は、消費税がまだ3%だった時代に買った金もあって、その金を今売れば金の値上がり益に加えて、2%の消費税差益も手に入る。今後、消費税が8%、10%に上がればその差額はさらに増えるから『まだ抱えておく。銀行に預けるよりも良い』と笑っている。個人投資家目線で考えると、金も金先物も面白い運用対象だと思う」
 外務員の上をいく「成熟した個人投資家」が確かに増えていると思わされる。
 5年前から継続して取引してもらっているというベテラン投資家を抱えるある外務員もこんな話をしてくれた。
 「私のお客様は今回の下げで3千万円の損が出たが、これまで儲けさせてもらったから不足分はすぐ埋める。5千万円振り込む。差額の2千万円で、下がったところでまた買うからよろしく』と言われた。『大きな損をしてみて、改めて金先物は面白いと思ったよ』とも言ってくれた。お客様自身もよく勉強しているということだと思うし、相場はやはり面白いのだなと思うし、わが社との信頼関係も確立できていることも実感した」
 いまだに、商品先物は怖いとしか考えない人々が、こうした話を聞いてどう思うかは分からないが、すべて事実である。業界をよく知る人々もこれらの話に対して、「少なくとも金先物は、業者でなく、投資家中心の取引に変貌してきたことだけは間違いない」と口を揃えるのである。
 ちなみに、今回の金下落については、キプロスによる金売却の予想や中国の景気減速予想など、複数の材料が相まって、ニューヨーク市場、東京市場共に金急落の引き金の一つになったともいわれるが、欧州危機がまだ解決していない以上、運用対象としての金の魅力はまだ失われてはいない。その魅力を生かせるかどうか、商品先物関係者の奮闘が望まれる。
 最後に、12日、COMEXのフロアー・トレーダーの間で回されたというこんなダジャレを紹介したい。
 「君はロング(買い)か。それはロング(誤り)だ」。
 先物取引には「買い」ばかりでなく、「売り」もあることを、多くの投資家たちは知っておいてもらうことが、急変にも対処するための知恵の一つなのに違いない。
 また、東日本大震災の時、日経225オプションで巨額の未収金が発生した例を考えると、幸いにして今回は大きな未収金等が発生しなかったとしても、次回も同じ幸運に恵まれるとは限らない。今後も流動性が高くならず、価格変動率が大きくなれば、ブローカーの未収リスクは高まることになる。ビジネスリスクの管理には、さらに目配りが求められるだろう。
 (2013年4月22日―1181号