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続・アベノミクスと商品市場
杉江 雅彦
 1月28日付の本欄での最後を、私は「東工取(現在は東商取)の金市場が急上昇したのは円安によるもので、これもアベノミクスの影響にちがいない。しかし金がインフレヘッジ目的で買われているとすれば、それがアベノミクスの将来を見据えた投資家感覚というものかも知れない」という文章で結んだ。
 その後の金相場の動きをみても、金の上昇を見込んで買うという投資家行動がすすんだ。アベノミクスで着実に円安が進み、東京市場の金相場が上昇を続けたからだ。その結果東商取の売買高が増え同所に経常収益の黒字をもたらした。アベノミクスで市場心理が好転し、とくに株式市場の活発が続いていることは周知のところである。しかし、その上昇ぶりは金をはるかに超える。したがって個別株式にとどまらず、株式投信にも売り切れ続出の盛況がみられている。
 株式は現物を買い持ちして値上がり益を待つ金融商品であるから、株価が上がれば買い、買うからさらに相場が上がるという好循環につながる。反対に株価が上昇しなければ投資家は見向きもしないから、長い間証券会社は赤字が続いた。それがどうだ。最近では黒字回復どころか対前期比で何倍もの高収益をあげている。
 それに比べると、商品先物は契約取引であるため、相場が上がっても反対に下がったとしても、投資家には双方向で利益を上げるチャンスがあるはずだ。ところが現実には、商品先物相場が下落すると売買高はむしろ減少する傾向にある。
 それは何故だろうと不思議に思い、ある時商品取引業者の営業幹部に質問したことがある。そうするとくだんの営業幹部氏から「顧客に売り注文をすすめて成功するには、買い注文の5倍以上の努力が必要だ」との答がかえってきた。どうやら「無い物を売る」ことを素人に納得させるのは、相当に骨の折れる仕事らしいことが分かった。
 ということで、商品先物も相湯が上がらないと活況を呈しない点では株式と同様である。
 さて、金に話題を戻してもう少し先にすすむことにしたい。たしかに国内の金相場は上昇して、東商取や商品取引会社にも収益をもたらしたが、これは円安で金の円建て相場が急上昇したからであって、金の国際相場に上昇はみられない。それどころか、4月に入ってニューヨーク相場が急落し、それ以後も目立った回復はない。アベノミクスの三本の矢のうち一の矢である金融緩和は、黒田日銀総裁の「異次元緩和」が奏功して大幅円安・株価急騰をもたらしたが、米国や欧州でも積極的な金融緩和策がとられていて、その結果大量の投資マネーが発生していることを忘れてはなるまい。
 ギリシャやキプロスなど一連のEU危機がとりあえず鎮静したのをキッカケに、こうした大量の投資マネーは金を売って米国の株式や債券に乗り換える資産運用戦略に転換した。加えて金のETFからも大量に資金が流出したようである。
 「有事の金」、「インフレヘッジの金」、「貨幣の元締めとしての金」といわれ、2011年から2年越しの高値圏にあった金も、いまは逆に「株式や債券のような配当や利子を生まない金属」としての面が強調されすぎているのかも知れない。さらに円安が続けばともかく、1ドル=100円の一線を超えた現在、国内の金相場の動きも国際相場に追随するのではあるまいか。