平成25年月23日(月)(毎週月曜日発行)第1201号      発行所 有限会社 先物ジャーナル社
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日本テクノシステム



米CFTC規制に物議相次ぐ
  法改正で個人の携帯電話まで録音保存義務付け
    大手プロップハウスによるCFTC訴訟も
◇"先物寸言" コメの価格と先物市場政策
◆"アングル"
 ・変わる大手穀物商社
 ・安全な清算システムの新しい心臓
 ・金価格は鉱山コストより下に
 ・金鉱山株はNYSE指数除外後に


米CFTC規制に物議相次ぐ
法改正で個人の携帯電話まで録音っ存義務付け
大手プロップハウスによるCFTC訴訟も
  
 米先物取引協会(NFA)は9月16日、米国の先物ブローカーに対して、米商品先物取引委員会(CFTC)の新たなコンプライアンス規則を通知した。この規則は、外務員たちが取引やそこに至る会話について、携帯電話などプライベートで使っているものについても録音および保管を命じるもので、今年12月21日から適用される。特に中小の取次・媒介業者とその支店に大きな影響が見込まれるとして、先物関係者からは疑問の声も上がっている。一方で、CFTCは9月17日、シカゴの大手プロップハウスのDRW社からシカゴの連邦裁判所に正式に訴えられた。店頭スワップ市場価格と先物市場価格のサヤをとる同社の売買について、CFTCは訴訟準備を始めており、業者から逆に先制パンチを見舞われた格好だ。店頭スワップ取引の清算集中化の流れの中で、米国の先物規制当局もまた混乱の中にある。

 過剰、過激な規制と反発も
 まず今回の電話録音規則改正について「冗談だとしか思えない」と語るのは「Dan Collns Repor」主幹のダン・コリンズ氏。コリンズ氏は、元Futures紙記者であり、それ以前はシカゴ・ボード・オブ・トレードのフロアー・トレーダーでもあった人物だ。
 NFAからのその通知には、「今回の改正により、FCM、IBおよびRFEDsは、コモディティ・インタレストとそれに関連する現物・先渡し取引について、取引執行に至るまでの相場情報の提供、勧誘、売買注文他に関するすべての口頭(対面)による会話を、それが電話であれ、ボイスメールであれ、あるいは移動電話(携帯電話)や他のデジタル機器によるものであれ、すべて録音し、1年間保存することが求められる」と書かれている。
 通知にはさらに「CFTCの規則は明快であり、1・35規則に書かれていることに適合するものであれば、その会話が会社の機器を使ったものか私的な機器によるものであるかを問わず、すべて録音しなければならない。改正案ではまた、その録音は、取引別に証明でき、検索可能な方法と様式で保存することも求められている」とも書かれている。
 仮に、外務員が町で一杯飲んでいる時に、自分の携帯電話で顧客と相場の話をしても、それを録音し、CFTCが求める適切な様式で保存しなければならないというわけだ。
 「私も、商品投資顧問やブローカーたちといつも話しているが、かれらが不在だったり、忙しい時には『この電話では発注しないで下さい。もし、注文したい時には、オーダーデスクにお電話下さい』などのメッセージが流れる。営業の電話は録音されていず、オーダーデスクの電話は常に録音されているからだ。これは、トレーダーやブローカーの誤発注や会話の擦れ違いを防ぐという意味で当然の措置であり、適切な規則でもある。だが、ボイスメールで発注するトレーダーはいないし、今回の規制は幅が広すぎる上に過激だ」と、コリンズ氏は言う。
 今回の規制改革は一方で、店頭スワップ取引に関連してのものだという見方もある。確かに、文面に「商品先物」という言葉はない。NFAも今回の通知ではこう付言している。
 「1・35規則は、もし対象となる業者が、口頭による会話録音について技術的・経済的に実行不可能であると要望を出した場合には、CFTCのDSlO(スワップディーラー監督部門)役員が、別のスケジュールを作成する可能性もある」。担当部署から見て、店頭スワップ取引に限定されるという見方があっても当然ではある。
 しかし、コリンズ氏はこう指摘する。「確かに店頭スワップの世界は、極めてインフォーマル(非公式)であり、今後は体系立てる必要があるが、それでも発注を録音すれば、目的は果たせるだろう。何より、この規制は、売買注文も含めてすべての会話を録音することとなっている。ブローカーにとっては先物も含んだ規制だと考えるしかない。」
 「もうひとつ、重要なことは、顧客とブローカーとはマーケットについていつも話しているということだ」とコリンズ氏は続ける。「何が良いか、何が動くか、どんなレポートが出てくるのか、その予想はどうか等々だ。そのすべてが、『取引執行に至るまでの情報提供』だし、それが現場の実状だ。しかも、それを携帯でどのように『証明可能で、検索可能な形で録音し、保存』すればよいのか問題だ。注文をすべて録音しておくことは理屈にあっているが、すべての会話を録音することを義務づけるのは理屈に合わないし、CFTCが、これらのデータを求める目的が何か分らない。自分たちが管理しにくいものをとにかく規制するというのは、規制当局による過剰規制だ」

CFTCがすべて正しいとも限らない
このコリンズ氏の発言について、現役のブローカーであり、米先物業界では著名なWebメディア「Market Wiki」の主幹でもあるジョン・ロシアン氏は、こう語る。「アクションがあって、リアクションがある。そしてコリンズ氏はいつもオーバー・リアクションでもある」
 勧誘規制強化が行き過ぎると、日本の商品先物市場のようにシュリンク(縮小)する恐れもあるのだが、ロシアン氏にそうした心配は今のところなさそううだ。
 ただ、そのロシアン氏でさえも、氏自身のニュースレターでは18日、シカゴで伝説的なプロップハウスであるDRWインベストメント社が、CFTCを訴えたことを伝え、「もしこの裁判でCFTCが勝ったら、われわれはトレーディングの暗黒時代に入るだう」と、CFTCの行き過ぎた規制に危機感を表明している。
 DRWは、Nasdaq先物取引所で金利スワップ先物を取引し、インターナショナル・デリバティプ・クリアリングハウスで清算している。他の先物同様、金利スワップ先物はマーク・トゥ・マーケット(清算会社による値洗い)の対象だが、店頭スワップ取引は、当時はまだ担保不要であり、マーク・トゥ・マーケットの対象ではなかった。
 そして、90年代初頭以来、先物業界人なら誰もが知っているように、証拠金の扱いが異なるこの2つの市場の価格も異なっている。先物の資金は、証拠金制度によって、その日の内に金利が反映されるが、店頭取引では、スワップの期日がくるまで反映されないというのもその一つだ。
 といっても当時はすでに金利が下がっていたようだが、基本的に、金利スワップは先物の売り方が有利でもある。金利が上がれば相場は下がり売り方は利益が出る、金利が下がれば相場は上がって、売り方は損をするが、安い金利で追証拠金を借りることができる。店頭スワップ業者には、こうしたゲームができない。DRWは、こうした先物と店頭の価格差を知り、店頭価格をセツルメント・プライスの決定局面で使い、先物の決済価格を操縦したとCFTCから訴えられる可能性があった。
 しかし、かれらは、「当時はまだルールもなく、我々の取引は当時のルールでは合法的だった」と主張。自ら、裁判に臨むことになったのである。ロシアン氏はこう指摘する。
 「すべての商品が同じ価格、同じ価値ということはない。一つの商品でさえ、月が違えば、価格は違う。だからこそスプレッド取引がある。もし、DRWが、市場で誤った価格をつければ、それは他の誰かにとってはDRWをつぶすスプレッド取引のチャンスになる。CFTCがそれを中断させることはできない」
 CFTCに限らず、最近の欧米規制当局のデリバティブ規制は強化される一方だ。つい最近も欧州では、重要なデリバティブ市場の監督は「自主規制機関」でなく、規制当局が直接監督するという法案が出されて話題になった。
 しかし、規制当局は国の東西を問わず、市場を直接監視できない立場にあるため、過剰な規制は市場を殺すことにもなりかねないとの指摘も増加しつつある。
 DRWによるCFTC訴訟も、「プロ」のトレーダーと「素人」の規制当局との争いであると見る関係者が少なくないのもそのためだ。
 ちなみに、ロシアン氏は、この記事のタイトルに「Enjoin this」と名付けている。直訳すれば「言うことを聞け」。これがCFTCの言葉なのか、DRWの言葉なのか、あるいはロシアン氏自身の言葉なのかは分らない。
 (2013年9月23日─第1201号