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証券と商品の文化のちがい
杉江 雅彦
 新聞は最新のニュースを報道するのが使命であるが、時に「観測記事」を載せることがあるから、気を付けて読む必要がある。当事者に問い合わせると、「そんなことを言ったおぼえがない」と否定されるケースもある。私自身、そんな経験も何回かあった。
 さて、今回取り上げたいのは、過ぐる11月29日の日経新聞が載せた「LNG先物創設へ提携〜東京商取、CMEがノウハウ」という記事である。もちろん、この記事が観測記事だとは言わないし、事実、「東京商品取引所は世界最大の先物取引所、シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)と業務提携の交渉に入った」と報じており、間違いない。
 これに先立って、東商取は液化天然ガス(LNG)などエネルギー原料の相対取引市場(OTC)を創設することを決定し、そのための運営会社をシンガポールの大手石油仲介会社と組んで設立した。東商取としては、OTC市場での取引仲介業務に強いCMEからノウハウを取得して、日本政府も後押しするLNG先物の取引所上場という新たな挑戦目標を見出したようである。
 たしかに、原子力発電再開の目途が立たないわが国の電力・ガス企業は、高騰する燃料費の削減をはかるべく相対的に安価なLNGの輸入にのめり込んでいるが、わが国のLNG輸入先はオーストラリア、カタール、ロシアなど遠隔地が多く輸送経路も複雑なため、高価格での輸入を余儀なくされているのが実情である。その解決のためにも、とくにアジアでの需給を価格に反映できるLNG市場の開設は欠かせない。その点で、東商取の長期戦略は正しいといえる。
 ところで、前記の日経記事を読んでの私の感想は、(やっぱり東商取はCMEと組むんだな)というものだった。何故そう考えたかというと、すでに政府は証券と商品を統合した総合取引所構想を打ち出しており、JPXもその方向で大阪取引所をデリバティブ専門取引所にする方向ですすんでいるはずである。問題は東商取をその構想の中に取り込むかどうかであるが、その点になるとJPXも東商取も歯切れがよくない。
 私に言わせれば、それは明治期以来の証券界と商品界の“文化のちがい”を反映しているからで、その文脈からすれば、今回の東商取のLNG先物相対取引市場創設の決断は、むしろJPXよりもCMEを提携の相手にえらびたいとのサインとしても受け止められるからである。
 もっとも、東商取にとって目先の緊急課題は更新時期が迫っている売買システムについて、JPXの売買システムの共同利用も選択肢のひとつでありえたが、それがJPXとの経営統合につながりかねない点も考慮して、結局は自社システムの延長を決断した。なおCMEシステムとの共同利用の道も残されているが、こちらについては東商取首脳も口を濁して語ろうとはしない。
 さて、先ほどもふれた証券界と商品界の文化のちがいについての私見を、ここでもう少し披露しておきたい。周知の通り、わが国の先物市場の歴史では商品(コメ)が江戸時代中期に出現しているのに対し、証券の方は明治期に入ってから誕生している。コメはもちろんのこと株式も、もっぱら投機の対象として取引されたが、結局は最期まで両市場の統合が献策されたことも企図されたこともなかった。実際にも両者はまったくちがった歩みを続けた。第二次世界大戦後の市場再開時からは、株式は現物取引しか認められず、投機よりも投資が優先される展開をみたのに対し、商品先物取引はもっぱら投機の対象として扱われてきた。このような両市場の質的相違が、それぞれの業界の体質にも大きく影響したものと考えられる。これを私は“文化のちがい”と表現したい。
 このような目で、これからの東商取の戦略を注視していきたいと考えている。